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文藝春秋で「アルジャーノンに花束を」の作者ダニエル・キイスとの対談

キイス:ニューヨーク生まれだって、私もそうなんだよ。
宇多田:えっ、本当!
キイス:ニューヨークのどこですか?
宇多田:マンハッタンの真ん中です。
キイス:私が生まれたのはブルックリンなんですが、グリニッジビレッジに長いこと住んでいたから、マンハッタンのことはよく知っている。ということは、二人のニューヨーカーが……。
宇多田:東京で会ってるのね(笑)。
キイス:これって、運命かもしれないね。あなたは自分で音楽を書くでしょう。若くて、十六だったかな。
宇多田:はい。
キイス:私は年老いた七十二歳の作家だけれど、同じニューヨーカーとして、どうして音楽を書きはじめるようになったのかを聞かせてもらいたいね。
宇多田:自分でも、あまり……。私の両親は、いつも音楽を作っていて、一緒にスタジオにいました。彼らは私が歌うことをすごく応援してくれたけど、やらされているようで、気がのらないこともあったんです。だんだん自分で書いてみようかなと思いはじめて、やってみたら気に入ったので続けてきたってところかな。
キイス:音楽は好きですか。
宇多田:ええ。大好き。
キイス:それじゃあ詩について、同じ書き手として聞くけど、何からインスピレーション(着想)を得られるのかな。
宇多田:毎日の生活からだと思う。日本では抽象的なことを曲にする書き手が多いけど、私はヴィジュアル・コンセプトからで、映画のシナリオを書くのに近くて言葉にした情景はすべて見ることができます。
キイス:そうか。私の小説のアイディアは夢を見ながらですね。夢と格闘しながら、書くことを学びました。物語を書くためには、とても長い時間が必要ですから。曲作りの場合はどうですか?
宇多田:一番早くて半日。一番かかったのは一年ぐらいかな。
キイス:わかるよ。アイディアによるからね。
宇多田:あの……。なんて言ったらいいんだろう。自分の曲が誉められると嬉しいと思いますよね。うちの両親もいつも「ああ、いい曲ね」とか「ほんとうに素晴らしいわ」と言ってくれる。それは自信を膨らませるだけだって思っていたけれど、実は批評されるのって、まったく反対の気持ちになる。すごく不安にさせられる。
キイス:なるほど。どうして?
宇多田:「いい曲ね」って言われている時は、本当にそうかなって、自分に問いかけるチャンスでもあると思うんですけど、「もっと良くできるはず、あれがベストではない」って、いつでも感じている。賛辞って私、より不安にさせられるんです。クリエイティブなことを言ってもらえると、とても役に立つけど。
キイス:わかるよ。同感だ。
宇多田:私はインターネットで、ファンから毎日七百通ぐらいのメールをもらってるんですね。それを読んでると、ほとんどが「すごい、すごい」と書いてある。ときどき「ここはよかったけど、ここの部分はこうすればもっとよくなる」と書いてあると、なんだかほっとする。
キイス:完全な人間はいないからね。
宇多田:そうね。批評されることに、助けられることもあるのかな。
キイス:ツルゲーネフがこんなことを言っている。正確ではないけれど、「誰の言葉にも耳を傾けるな。すぐに消え去る。残るのは馬鹿な連中の批判だけだ」ってね。あなたは創作者であり、自分のことをよく理解している。他人の批判なんて、意味がないね。ツルゲーネフもかなり酷評されたんじゃないかな(笑)。
私は『アルジャーノンに花束を』を最初に出版したとき、酷評された。いやあ、叩きのめされたね。有名な批評家に「短編は友達への贈り物にできる本だが、それをキイスは長編小説に書き直した。書き直して欲しくなかった。どうすれば、あれほどひどく書き直せるのか」と叩かれて、私は死にたかったよ。要するに、批評家の言うことなんかに耳を貸すことはない。ツルゲーネフが言ったように、批評は無視して、自分の世界観を確立していればいい。
宇多田:何かを創るというのは、孤独なプロセスだと思います?
キイス:もちろん。すべてがここ(頭を指す)で創られるんだから。映画や舞台は共同作業だけれど、作家や音楽家は、ひとりで生きている。もちろん、人との関わりのなかで暮らしているんだけど(笑)。私には「ダブル・ビジョン」がある。ふだんの暮らしのなかでも「いつか、このことを書くことがあるだろう」と思っている。今のように話しているときは、そんなにナーヴァスではないけどね。激しい感情に支配されているときには、私の一部が、私を離れてすべてを見ているような感覚──。
宇多田:そうね。
キイス:あなたにも、そういうことはあるのかな(宇多田ヒカル、頷く)。そうだね。誰もが二元的なものを持っている。それが多重人格につながる。いずれにしても分裂しているような感覚はあるんだね。
宇多田:そういうの、私にもありますよ。これって曲に書けますね(笑)。
キイス:もちろん。それが私たちなんだ。どんな悪いことに遭遇しても、いつかは物語に書けると考えている。

なんのために歌うんだろう

キイス:ところで、学校に通ってるんだよね。あなたの授業中、曲の素晴らしいアイディアが閃いたらどうする?
宇多田:そんなに突然は……。そうですね、どうしても書きとめたくなったら、携帯電話を持ってトイレに行って、自分の留守番電話につないで録音するかも。
キイス:そりゃあいい。だけど音楽家はどうやって曲を作るのかな。あとで本の作り方を話すから、教えてくれないか。
宇多田:OK。まずはキーボードやシンセサイザーの前に座って、それから弾きはじめるんです。私はコードの名前とか知らないから、演奏するだけ。「この音はいいわ。この音は気に入った」という感じでサウンドを聴く。そうすると音がみつかります。シンプルな作業で、メロディを作ろうとはしない。それから詩を書きはじめる。日本の他のミュージシャンは、歌詞を先に書いてから曲をつけるって言うけど。
 ソース
http://www.bunshun.co.jp/bikkuri85/rank01_01.htm
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